母が死んでから大声をあげて泣いたのは確か2度。
報せを受けて朝があけるのを待っていた間と、
そのあと無人の実家に到着してから。
どちらも誰もいない処だ。
母がもうこの世にいないということが苦しくて悲しい。
一ヶ月前に自宅に帰ってから仕事を探していた。
腰もあがりにくくなっているからなかなか決まらない。
仕事はない、金も底をついている、きっかけはそれだったかもしれない。
仕事は決まらないが今のうちにもう一度実家に行こうと決めた。
今回は数日だけだが。
兄ちゃんの好きなものを土産にと考えるが金がない。
遊びに金がないと言うのは嫌なのだが仕方ない。
それでも少額で何か買って帰るものを考える。
今までは毎回帰るたびに母に何を買って帰るか選ぶのも楽しみだった。
もう母ちゃんはいない。
何も買ってやれない。
金も無いが買って帰る相手がいないのだから。
全てが一緒くたになってこみあげる。
よくわからないまま大泣きしながら兄ちゃんに電話した。
もう限界だったのかもしれない。
一人で大丈夫だと思っていたがダメだったのだ。
まだ仕事に行っていれば他人と接するから何とかなるが、
家にずっと一人でいたのも原因だろう。
大泣きしながら電話してきたので相手もオロオロする。
(そりゃそうだ)
最初は仕事が決まらないことや金がないことで泣いていると思われた。
いや・・・そんなことでは泣かない。
困ったなとは言うが泣くことでもないのだ。
だけど、母ちゃんがこの世にいない、どこにもいないことは耐えられない。
泣いている時に「泣かないで」という人がいる。
正直その相手の前では泣くのは嫌だ。
(そもそも私は自分以外がいる所で泣かないが)
泣いている時は泣きたいのだ。
兄ちゃんの前で泣いたのは何時振りだろうか。
もちろん母ちゃんが無くなって実家にいってから何度も涙を流したが、
そうではなく、それ以外で何時振りだったか記憶がない。
だからどんな反応か知らないまま。
泣くな、とも、泣いたらいい、とも言わなかった。
俺も辛い日あるよ、と。
否定も肯定もされないことがこれほど重要だと考えたことは無かった。